「社交ダンス×ドラム」の魅力とは?

2022年11月30日(水)社交ダンスと生演奏の音楽を楽しめるイベント「DANCE TO vol.4」が開催された。イベント主催者はラテンダンス元全日本チャンピオンでもある鈴木秀朗氏、音楽担当のバンドマスターは4000人以上の講師のMVPを3年連続受賞の成相悠一氏。それぞれのジャンルのトップを知る二人は「ドラムレッスン」という場でつながった。そんな二人が出会って生まれたイベント「DANCE TO」の魅力や、ダンスと音楽の密接な関係性を、公演前のお二人に語ってもらったインタビュー。

鈴木秀朗・FESSIダンススクールhttps://www.fessi-dance.com/
成相悠一・エサソンドラムスクールhttp://www.ellyllon-lesson.com/index.html

ダンサー」が「ドラム」を始めた理由

出会い

――お二人の出会いは成相先生のドラムレッスンとお聞きしていますが、なぜダンサーの鈴木さんがドラムを始めようと思ったのですか?

鈴:いろいろ理由はあるんですけど…僕がまだ競技会に出ている頃、海外の大会に日本代表として出たんですが、ファイナリスト6席のうち4席がヨーロッパ人。残り2席にアジア人が入ったんです。アジア人は日本(自分)、中国、韓国。

その時、落ちたのは僕(日本)でした。なぜ僕は入れなかったんだろう?と、その決勝戦の映像を見たんです。一番思ったのは、中国と韓国はそれぞれのナショナリティが強かったという事。何かのコピーじゃない、ナショナリズムがすごく出ていた。中国っぽい踊り、韓国っぽい踊り、と強く感じさせられたんです。

それと同時に音楽性についても考えました。僕のドイツの先生が、世界のファイナリストダンサーで有名な方なんですけど、もっと有名なのがなんとDJなんです! ダンスじゃなくて(笑) なので、音に対しての反応にメチャメチャうるさいんです。これはもうドラムやらなきゃいけないな!とずっと思ってたんですよね。

――何かリズム楽器を、と思ったのですか?

:ドラムはラテンの原点ですから。

:鈴木さんがレッスンに来た理由、僕も、覚えてますよ!以前見た舞台でドラマーがいて、とてもかっこよかった、とおっしゃってましたね。

:そうです。いろいろな状況が重なっている中で、それを見て「やりたい!今やろう!」と始めました。

:でも、他の体験レッスンも受けられてて、僕、5人目の講師だったんですよね。

:成相先生の所に来るまでの、他の体験レッスンがあまりにも自分の求めてるレッスンと違ったんですよ。自分もダンス講師をやってますから、聞いた事に対して出される引き出しが違うとわかるんですよね。

:え!?そんなに厳しい目で見てたのを知ってたら、僕も緊張して上手くレッスン出来なかったかもしれない(笑)

:ドラムがどういう楽器なのか始めからきちんと知りたかったんです。レッスンが始まって、まず最初に椅子の高さの合わせ方を教えてくれたのは成相先生だけでした。で、もう「ここにします!」と決めたんです。

生徒としての顔

:ドラムレッスンの時の鈴木さんはカウントの取り方もダンス式なんです。「はい、ワン!ツー!スリー!フォー!」じゃなくて、「ワーン!エンダー、ツー!エンダー、、、」みたいな。僕らから見ると、それ分かりにくくないですか?って思ってしまう(笑) 

――ドラムを習うまでは楽譜は読めなかったですか?

:読めませんでしたね。きちんと論理立てて音符を理解してそれをダンスに落とし込んでいるダンサーは、世界的に見ても少ないんじゃないかと思います。だからドラムを習い始めてからは、「あー、こういう事だったのか」と思えるようになりました。実際に叩けるか?となると話は別ですけどね。

:基礎的な音符の事を教えている時も、3連符や16分音符など説明するとすぐに理解されてます。「ゆくゆくは自分のダンスの舞台演出などにもドラムを取り入れたい」と、おっしゃっていましたが、その言葉通り、今のダンスイベントにもしっかり活かされてますよね。

――ドラムは楽しいですか?

:純粋に楽しいです!出来ないと悔しいし。自分の思うように叩けるようになりたいなぁって思います。不思議なんですけど、ダンスは何百人が見ていても緊張しないんですけど、エサソンフェス(ドラム発表会)はめちゃ緊張します。同じ人前でやる、という事なのにまったく違う感覚です。

だから、ドラムを習うようになって初めて生徒さんの気持ちがわかりましたね。生徒さんには「大丈夫だから!」と一緒に踊ったりするのに、自分の時は「全然大丈夫じゃないっ!」と(笑)

――ドラムの生徒としての鈴木さんは、発表会でもダンスを取り入れていらっしゃいましたね。

:それが、うまく踊れなかったんですよ~。やはりドラムとダンスふたつを自分ひとりでやるのは難しいですね。ドラムのレベルとダンスのレベルが違いすぎました(笑) 面白かったのは、ドラムに引っ張られて踊れなかった。下手な方に引っ張られるという…見ていたダンスのパートナーはゲラゲラ笑っていましたね。

ダンス講師としての顔

――鈴木さんはFESSIダンススクールの主宰者として、講師としても活躍されてますが、生徒さんたくさんいらっしゃるんでしょうね。

:いや、僕のスクールは生徒さんの数はあまり多くないです。なんというか、あまり大勢から「先生、先生」と言われるより、ひとりひとりの生徒さんと同じ立場でお話していたいと思っているんです。

――たしかに、ホームページも鈴木さんがラフなファッションでカジュアルな写真が多いですね。社交ダンスはソーシャルなイメージが強かったので意外でした。

:はい、そうなんです。ラテンなんてどちらかというと「夜」のイメージですしね。業界内では、社交ダンサーの写真って、よく顔の半分が影になってて暗い感じで「俺ってカッコイイでしょ?」みたいなのがお決まりなんですけど(笑) でも、僕はもっと気軽に、すぐに接することが出来るようなスクールにしたいので、ホームページもそんなイメージで作っています。

――ちなみに成相先生は社交ダンスの経験はおありでしたか?

:全くないです。鈴木さんと知り合ってから、ダンスの体験レッスンを受けさせてもらいました。

――社交ダンスではない他のダンスとの共演などはありましたか?

:ヒップホップ系で1回だけありますね。単純にドラムとダンスだけ。即興で俺が叩き出すとそれに合わせてダンサーが踊り始める、みたいな。逆に踊り始めたダンサーに合わせて俺が叩く、とか。ラップバトルのドラム版みたいな感じですね。

――お二人に伺います。生徒と講師、から、表現者(演者)同士になった時、何か違いはありましたか?

:鈴木さんは「さすがチャンピオンだな」と思いました。プロの仕事でしたよ。これが本来の姿なんだな、と。生徒の時の鈴木さんも、さすがダンサー!という感じで、曲の中のキメる部分とかを理解していてすごいなと思ってはいましたけど。

:成相先生はいつもフラットなので、プライベートもレッスンも今回のイベントでも、変わらないですね。もちろんドラムを叩いていてスイッチ入るとわかりますけど。

:現役チャンピオンの人とかすごいダンサーさんがたくさん来てるんですけど、見ててテンションが上がるのはやっぱり鈴木さんペアなんですよ。溢れ出てるんですよね。

:僕のダンスは体を投げ出すような、狂ったように踊るダンスなので、リスクを背負う事になってしまうんです。音とダンスがずれちゃったりしますから。。だから、他にあまりいないのかもしれません。でも攻めないとイヤなんですよ。守りに入りたくない。

:演奏が綺麗で上手い人と、汗だくになって息ハアハアしながら演奏してる人の違い、みたいな感じですよね。DNAとか血に訴えてくる感じがします。鈴木さんのダンスは。

:まあ、泥臭いんでしょうね(笑)

ダンスと生演奏を肌で感じる「DANCE TO」

一番パワーを感じるのは生音

――最初にこの「DANCE TO」をやろうと思った時は、ダンスと生演奏、と決めていたのですか?

:ええ、そうですね。やはり一番パワーを感じるのは生音だと思っているので。それと、成相先生ともよく話すのですが、その場でバンっと出したライブ感が好きなんですよね。まあ、CDとかも良さはありますが。

あと、ダンスに関して言えば、音楽チームに曲負けしてるとか絶対言われたくないんですね。多分音楽チームもそこは同じで、踊りに負けちゃってる、とかは嫌だと思うので、真剣勝負でどこまでこのショーを高められるか?っていうのを目指したいです。

会場のこだわり

――会場を探すのって苦労されたりしますか?

:もう大変ですね!うん、めちゃ大変です。ダンスの場合は平土間じゃないといけないのと、ある程度のスペースが必要なので条件が合う場所を探すのが難しいです。

:バンドも一緒のイベントなので、機材が無い会場だと別に用意しないといけないですしね。PAさん(音響さん)呼んだりとか。ライブハウスだと機材は揃ってるけど、ダンススペースが狭かったり。

:イベントのコンセプトが「音楽とダンスを肌で感じられる」というのが一番なので、僕のこだわりで、ステージがある会場は使いたくないんです。段差もあって欲しくない。あくまでもフラットに。客席から手を伸ばせば触れられるくらいの距離で踊ることを大事にしています。

毎回のテーマ

――パンフレットのイラストは、どんなメッセージが込められてるでのしょうか。

:そうですね。昨年はコロナの影響もあって、みなさんにエールを送れるようなイメージという事で、「旗」のイラストだったんです。

――昨年はエールの旗だったんですね!

:はい。そして今回は、みんなで一体感を持ちたい、という事で、「手と手」を組んだり、結びの形のデザインになったりしています。

出演ダンサーは20代~60代

:これもこだわってる事なんですが、DANCE TOのダンサーは20代から60代まで、と、年齢層が広いのです。本当はパワーのあるショーを求めるなら、若者だけでも出来るんですけど、やはり年輩の方には、ベテランの踊りという良さもある。フィジカルは弱いけど、音楽性、芸術性はすごい高い、とか。それぞれの良さを出したいのです。

:鈴木さん世代も一番油が乗ってますよね。若さもあり、体力もあり、練熟味もある。

――幅広い魅力が詰まっているんですね。たくさんの人に見てもらいたいですね。

:本当にそう思います。見てもらうためのプロモーションも大事ですね。

主催者はやっぱり大変

:ダンサーチームの話をすると、若手に対して「もっとやれよ」と思ってしまったりする。カッコよく踊っちゃうんですよね、ワルイ意味で。まだまだ出せるでしょう?と思ってしまう。

:鈴木さんは審査員側にいても、破天荒ですね、きっと(笑) でも、主催って大変ですからねぇ。ハコ代(会場費)がどうとか、ギャラがどうとか。いろいろなところからの圧力とか。でも鈴木さんはどんな圧力にも負けてない。もう第4回目ですもんね。

:気にしたらやっていられないですからね。あくまでも人の一意見、と思ってないと主催はきついです。まあ、ダンスはペアがいるので、二人で相談して良ければやる、どちらかがNGならやらない、と割り切っています。

――表現する側でもあり、演出など見せる側でもあり、さらに運営をやる、というのは本当に大変なんでしょうね。

:プレイング・マネージャーの苦労がありますね。「俺、こんなにやってるのに、なんで分かってくれないの?」ってなりますからね。妥協もせずに、決まった日までに、すべてを丸く収めないといけないんですよ。

:ただ、主催をしていると、イベントキャスティングなどの仕事のオファーが増えますよ。「バンド関係お任せしますので集めてほしい」とか「ドラマの出演者に、楽器の演技指導してくれる人を集めてほしい」とか。そういうのがあると、主催の努力が形になったのかな、と感じたりします。

――鈴木さんもそういったオファーはたくさん受けられているのでは?

:僕はオファーをいただいても、お断りしてしまう事があります。好きな人としか仕事したくないんですよね。お金無いんだからホントはそれじゃダメなんですけどね(笑)

ダンスを考えているときは「ロジック」

:僕の衣装を作ってくださってるのが、広野正直(広野デザイン研究所)さんという方で、デザイナーズブランド「ヨウジヤマモト」に務めた後、独立された方なのです。パリコレにも出てるんですが、デザインの世界のおもしろい話があって。ヨウジヤマモトさんがティッシュをクシャクシャっと丸めて、テーブルに置くんですって。そして「コレ、作って」というひと言で、スタッフが洋服を仕立ててパリコレに出さなきゃいけないらしいんですよ。

:トップレベルになるとイメージだけで伝えられるんですね。

:発想としては理解できますね、芸術の世界という意味では。

:あります!あります!レコーディングの時とかも、叩いていると、「もっと放課後っぽく」とか言われた事あります。放課後っぽく??みたいな(笑)

それを受けて「切ない感じなのかなあ?」とか「夕焼けなのかなあ?」とか(笑)そういう抽象的な指示って結構あるんで。ダンスもそういうのあるんじゃないですか。

:ありますねー。

――ダンスをする時ってどんなイメージを持って踊っていらっしゃるんですか?たとえば、「放課後」のような「言葉」とか、「色」とか「景色」とか…

:ダンサーによってそれぞれだとは思うのですが、僕の場合はすべて「ロジック(論理)」なんです。こう見えて(笑) 学んできたものをすべて論理で形にする。僕は自分の事を不器用だと思っているので、出て来るものは今まで培ってきたものしかないと思っています。

――!!…予想外でした。ラテンダンスのチャンピオンというイメージから、論理とは真逆なものを想像していました。

:「パッション(情熱)」でいってるのかと思いますよね。

:根本は「ロジック」なんです。で、最終的にどこに行くかというと、、、「ハイ!踊りましょう!」ってなった時、そこでスイッチがバンっと入るので、すべて忘れて「無心」です。やってきたものをそのまま出す。もちろん曲のイメージや、その時の自分のフィーリングはあります。人間なのでそれは日によって違います。パートナーとも嚙み合わないといけないですしね。相手に触った瞬間とか、見た雰囲気でちょっと変えたりします。

:触った瞬間!?そんなに「生モノ」なんですね。パン職人が、その日の温度や湿度に合わせて調理するのに似てますね。

――それを言ったら先生のレッスンも近いものがあるのでは?その日の生徒さんの感じに合わせたり、とか。

:そうですね。今日はドラムよりいっぱい喋りたいのかなあ?とか。だったら最初の世間話は長めに…とか。中には「聞いてくださいよ~」って言いながらスタジオに入ってくる生徒さんもいますからね(笑)

楽器隊だけの時と、ダンスが加わった時とで演奏は変わる?

――楽器隊から見た時、楽器だけの時とダンスが加わった時とで、演奏は変わりますか?

:まったく違いますね。ダンスに引っ張られます。テンション上がってるダンスを見るとこっちも上がっちゃうのでテンポキープが難しい。自分が「お客さん」になってしまって、ついダンスを見ちゃうんですよね。

――ダンス隊はそんな楽器隊の変化を感じる事がありますか?

:ありますあります。僕はその時に感じたものを生でドン!とやるのが好きなんです。テンポ感とかはイイ意味で狂っちゃっても、それと合わせて踊るので何も問題ありません。成相先生とも演目中よく目を合わせて踊りますよ。

――という事はDANCE TOの演奏の時はクリック音は聞かないですか?

:聞かないですね。聞いたら生の良さは無くなりますから。鈴木さんはバンドで言ったらロック系でしょうね。最後盛り上がってテンポ速くなって終わるみたいな(笑) 逆にジャズ系の人だったら、テンポキープ優先で安定した良さを出したがるかもしれないですね。

:たしかに、「崩れないと面白くない」っていうのはありますかね(笑)

――普段は生音じゃなく音源に合わせて踊る事が多いですか?

:そうですね。発表会でも他のダンスショーでも音源を流して踊ります。感覚的には、生音の時のダンスと、音源の時とはダンスも違います…うん、全然違いますね。海外でも大きい競技会だと最後は生演奏だったりしますよ。古き良きオーケストラ、という感じの。

――では、いつも生演奏の「DANCE TO」は贅沢なショーでもありますね。

:そういう意味で僕らバンド側からしても、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

――イベント初回の楽器はドラムだけだったんですよね?

:そうです。最初は僕のドラムだけで、その後キーボードさんが入って、次はボーカル、ベース…と増えてきました。

――ボーカルといえば、J‐POPに合わせて社交ダンスを踊っていらっしゃってて、とても新鮮でした!こんな世界があったんだ、と思って。

:ありましたね。なんでも踊れますよ^^ なんなら演歌でも。演歌は人生のドラマを表現しなきゃいけないのでおもしろいです。

――前回は男性グループでの演目がありましたね。ああいう時はリーダーのような人がいてその人に合わせて踊る感じなのですか?

:あぁ、群舞ですね。リーダーはいたりいなかったり、いろいろです。元々あれに空手も入ってたんですよ。第一回目だったかな。

――空手ですか!?社交ダンスのショーなのに?あ、でも、若いころ空手もお強かったんですもんね。

:黒帯持ってましたね^^ 元々、空手の型にリズムが入ったらどう見えるかな?と思って、ダンス風にアレンジしました。

:かっこ良かったですよ!面白かったです。空手の蹴りがドラム近くに来た時は、「あ!当たったら死ぬかも」って思いましたけど(笑)

――すごい!なんでも試すチャレンジャーですね!

振り付けは誰が?

――ダンスの演出や振り付けも鈴木さんご自身でされてるのですか?

:振り付け…うん、そうですね…イイ質問ですね(笑) これも面白いんですが、踊るのはすごく上手いのに振り付けがメチャ下手、という人も多いんですよ。

――そうなんですか!?

:逆に振り付けはメチャメチャ上手いのにダンスは下手、もある。で、自慢話になってしまうけど、僕は両方出来る(笑) 振り付けだけ頼まれる仕事もありますし、振り付けを教える事もある。音楽の方も、ダンスに合わせて編曲したり編集したり、というのも自分でやります。今回、振り付け出来る人が、僕以外誰もいなくて。僕の分、今から振り付け考えるんですよ。

――えっ?あと2週間ですよね!?

:リハはあと1週間ですよ^^

――ハードですね~

:いやー、出来てないんですよ。。。

――リハは何度かされるんですか?全員で集まるのは大変そうですが、、、

:1回です。

:あの人数を調整するのは大変ですよ。その1回にも参加できない人もいるくらいです。

:リハは音楽の感覚とかテンポ感とかの確認なんですけれども、何度も言いますが、「ライブ」なので大事なのは本番でどう出るのか?っていうところです。成相先生のドラムとかも、リハと本番で手数が違ったりするんじゃないですか?

:そうですね。変わる時もあります。

――ショーが終わってから反省会とかはするのですか?振り返りとか。

:うーん、そうですね、若手に個人的に苦言を言ったりしてますかね。まとめて軍隊的にやってもいいんですけど機械的になってしまうのも嫌で。みんなそれぞれカラーを持ってるので、その人に合った言い方をしたいですし。やはり自分が思うように人は動かないですから、まとめるのは大変です。ね、成相先生?

:そうですよね、人間関係は一番大変で、でも一番おもしろい。そこをどう楽しむか?人生は楽しんだモノ勝ちかもしれないですね。

「DANCE TO」の今後

――今回11月30日の公演後の「DANCE TO」は、何か変化がありそうですか?それともこのスタイルを貫いていくのでしょうか?

:そうですね、元々「DANCE TO」というタイトルの由来は「ダンスと○○」というイメージだったんです。なので、シンプルに「ダンスと生の音楽」というのが最初でした。

ダンスのこだわりに関して言えば、「目の前で間近に見れる」のを大事に考えていました。だからステージではやりたくないんです。ちょっと距離があるじゃないですか、「ステージと客席」って。もしステージを使ってやる時があるとしたら、その時はイベントのタイトルも変えますね。

――そうですか。だから、競技会のダンスとも違う、大きいステージでのダンスショーとも違う、「DANCE TO」ならではの魅力があるんですね。

:はい。一番の魅力はダンスも音楽も、「見ている人が肌で感じることが出来る」という事ですね。社交ダンスを見てもらう機会の敷居はあまり高くしたくないのです。

――具体的に来年のショーの事など考えていらっしゃいますか?

:来年は思うところがちょっとありまして…原点に帰ろうかと。

:ここまで、MAXな豪華メンバーでやりましたしね。

:そうですね。それか、違う風をまた入れる、とか。

――追及し続けている、という姿勢に感銘を受けます。

:毎年、「前回を超えるくらい良いものを作ろう!」と思ってやってるんですよね。

:いつまで踊れるか分からないですし(笑)

「ダンス」と「音楽」の密接な関係

踊りが先か?打楽器が先か?

――以前、先生から鈴木さんとバトルになったと聞いたお話なんですが…「ニワトリが先か?タマゴが先か?」ならぬ「踊りが先か?打楽器が先か?」のお話を聞かせていただけますか?

:始まりは、僕が「打楽器は人類最古の楽器なんですよ。」と説明した時なんです。それに対して鈴木さんが「いや、打楽器が無い時から、火の周りをまわって踊ったのが先ですよ」みたいな話になって。

:要するに、音を出す時、叩いて出しますよね。手を叩いたり、物を叩いたり。「意識して叩く」っていうのは踊りから入ってる、と僕は思うんですよ。お祈りする時の足音とかもね。ダンスって「祈り」から始まっていますから。

:いや、手や物を叩いてるうちに、踊ったんじゃないかと(笑) 言い合ってるうちに、「それに、心臓ってリズム刻んでますよね」ってところまで話が遡ったのですが。

最近になって、いや待てよ…心臓が出来る前のプランクトンの頃やタンパク質の時点で、もう「体」を動かして踊ってたのかな?って思い直してます(笑) そこまでの話になったら、やっぱり踊りが先なのかもって。

――今のところ「打楽器が先」の意見が若干劣勢ですね(笑)

踊りとリズムの関係

:まあ、どちらにしても、そのくらい踊りとリズムは密接な関係にあると言えますよね。前に鈴木さんから、「ラテンダンスは下半身でリズムを取って上半身でメロディを表す」って聞いて、なるほどなぁって思ったんです。

:かなり密接ですね。そう、上半身でメロディを表現するんです。「ラテンダンス」に関して言えば、発祥は元々奴隷のダンスだったんです。奴隷が足かせを付けられて、重い足を引きずりながら1歩を踏み出すところから始まっているダンスなんです。だから踊る時も足の動きは重たく見せるんですよ。

バレエは群舞の美しさを表現するので、ヒラヒラと軽やかなステップですが、ラテンは重く抵抗感の強い苦悩を表現するんです。

――上半身、下半身で考えるならドラムも似ていますね。

:そうですね。足はキックでビートを刻みますし、両手でメロディ的なフレーズを叩いたりしますね。

でも、鈴木さんほどダンスが上手いのに、ドラムになると手足が思うように動かなくて合わなくなる。音楽を聞きながら、上半身と下半身を動かすのはドラムもダンスも同じなのに、何が違うんでしょうね。

:わからないけど、自分自身は結構ショックなんですよ(笑) ダンスをドラムに置き換えたら自分のレベルにめちゃショックです。俺、こんなハズじゃないのに、って。夢中で叩いてると手と足が合っていない。ダンスならありえない!

――自分の体でも、合わせるのって難しいんですね。

道具や環境のこだわり

:僕は手足が合わないって事はないですが、足のキックペダルの調整が合わないと感じる事はあります。少し踏んで「あぁ、このペダルはこんな感じか」と。

:すごいなぁ、すぐにコントロール出来ちゃうのかぁ。

:僕の師匠は「どんな機材でもいつでもどこでも叩けなきゃダメだ」と言う人だったんです。だから僕も見習って、いつもスタジオに置いてある機材を使ってました。おかげでコントロールが上手くなったかもしれません。

ダンサーの方達も道具に対してストイックですよね。いつも靴の底をブラシみたいなのでガリガリやってますね。

:そうですね。ダンスの靴底は革で出来てるんですが、ホコリとかが付いて溜まってしまうと滑りやすくなるので、毎回ブラシでこすって毛羽立てるんです。滑るとどうしても体の動きが流れてしまったりダンスに影響が出てしまいますからね。

:滑らないようにするためだったんですね!

:はい。実は僕も成相先生と一緒で、「どんな床でもどんな滑る靴でも踊れるようになろう」と思っていた時期がありました。この滑り具合だったら、このくらいの勢いで体を投げ出せばいい、とか出来るようになってきたんです。でも、ある時、世界チャンピオンが大会で踊る前に、自分の靴底をガリガリされてまして。それを見て、「なんだ、やっていいんだ!」と思い直しましたね。(笑)

こだわりと言えば、、、トッププロが、ショーの本番でCDの音楽をかけた途端「ダメダメー」とNGを出してショーをストップさせた事があったんです。怪我でもされたのかとスタッフが聞くと、「音楽のスピードが遅い」と。本人が持ってきているCDなんですよ? 結局CDを再生する機材のせいだ、と分かって。

:そんなシビアな世界なんですか?それってコンマ何秒の違いくらいですよね。

:はい。その場所の電圧によっても影響されますし。まあ、踊る側からするとわからなくもないんですよ。そのダンスのベストのテンポっていうのがあるので。ただ、僕はそんな機械的なダンスは面白くないなって思うタイプなので、そこまで気にしませんが、プロの中にはそういう人もいます。

――ペアで踊っている時にどちらかが音楽とズレていってしまっていたら、どこに合わせるのですか?やはり音楽?

:ダンサーのレベルにもよりますけど、高度な話になってしまいますが、、ペアダンスは男性がリードして女性がフォローするという形なんです。カウントは一緒にタイミングを合わせるんですけど、ほんのちょっとずらすんです。男性がリードしてそれに女性が反応する感じです。難しいのは次のカウントです。女性の次の1歩より、ちょっとだけ先になるように男性は踊らなければいけないので。

:バンドよりも更に「生」というかライブ感がありますね。バンドは4分、8分、16分と区切られた音楽が多いからそこまで影響ないかもですね。バンドはいっせーのでバシっと音が合った時が、一番音圧が上がる。それがバンド演奏の売りでもありますから。もし、ちょっとだけでもずれてたら、「あー、なんかまとまりないバンドだな」って思ってしまいます。

座右の銘

――最後に、お二人それぞれの座右の銘とかありますか?

:座右の銘、ありますよ!僕は「1番より2番!」

――それは、なぜ?

:常にチャレンジャーでいたいからです。

:さすが先生!カッコいいなぁ。

:チャンピオン取ると、あとは守るしかないじゃないですか。それはシンドイ。

:追われるのは大変なんですよね(笑)

:あはは、チャンピオンの意見が来ましたね。走る時も、前にひとりいる方が楽じゃないですか。ちょっとズルいんです(笑) 1位を死守するシンドさよりは、トップに向かっている時の方が楽しいんですよ。

――楽しいって、素敵ですね。

:音楽やドラムは自分にとって、「呼吸」と一緒なんです。当たり前、と言う意味ではなく、「してないと死んじゃう」って意味です。僕の人生は音楽とドラムで形成されてるんです。つながった人達も、仕事も全部。

――まさに音楽とドラムの人生!!鈴木さんはいかがですか?

:世のため、人のため、自分のため、です。人の人生に寄与する生き方をしたい。たとえば、誰かが人生の最後を迎える時、「あぁ、鈴木秀朗っていたな」って思い出してくれたら、自分は「生きててよかったな」って思えるかな。

――寄与する生き方、なんですね。

鈴:実は以前、ひとつの出来事がありまして。80代の生徒さんが亡くなったんです。その人が自分宛ての遺言を書いてくれていたんです。病気で震える手で書いた事が一目でわかるものでした。「鈴木先生のレッスンに週2回通った人生の締めくくり、楽しかったです」と。涙が止まらなかった。そこで初めて気が付きました。自分はダンスを通じて、そういう生き方を望んでいたのだと。自分に満足してしまう方が楽ですけど、そこはストイックに人格完成を目指したいですね。

~あとがき~

「音楽活動をする」という事は、音楽仲間が増えるだけでなく、音楽以外の分野の方との広がりにも繋がっていきます。そして、人と人との出会いや繋がりによって、新しい何かが生み出される。この記事が、音楽や楽器に興味を持って活動していこうという皆様に向けて、新しい世界が広がるきっかけとなりましたら幸いです。   

取材・執筆: 村戸ちか

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